ベントナイトは,数千万年以前又は以上の火山噴出物から生成した粘土鉱物で,2:1型結晶質でスメクタイト群に属する。図5.1に示すように左側(ワイオミング州,サウスダコタ州,モンタナ州)は米国におけるNa型ベントナイト主要生産地を示す。白亜紀とは地球の地質時代のひとつで,およそ 1億4,000万年前から 6,500万年前を指す。
図5.1右側は白亜紀の北アメリカの状態を示す。Na型ベントナイト生産地は,古くは海底であったことが判る。また,写真-5.2はベントナイトと一緒に掘り出されたサメの歯の化石。サメの祖先はデボン紀の初期,4億年前に現れた。写真-5.2からもベントナイトは海で生育した海成粘土であることが判る。
ベントナイトの呼び方は,主成分であるモンモリロナイトと夾雑物を含めた岩石名の名称である。天然に産出するベントナイトの原鉱石には成因や生成年代の違いにより,同じ地域でもその性質が異なり,随伴鉱物と言われる石英,長石,クリストバライト,雲母,ゼオライト,その他が混在している。
また,ベントナイト以外の粘土鉱物も含んでいる場合もある。ベントナイトの性質は大部分が含水珪酸アルミニウムであるモンモリロナイトに依存している。モンモリロナイトは薄片状の結晶癖を有し,単位結晶格子には不整が多く大きな負電荷を持っている。この負電荷を補償するためにNa+や Ca++のような陽イオンを単位結晶層間に吸着している。これが交換性陽イオンである1)。
モンモリロナイトの膨潤能と水封止力に関するキイはその結晶構造の内部にある。モンモリロナイトの薄片粒子は,乾燥モンモリロナイト粒子として 1 cm3 を水中に完全分散させたとき,数億個の超微粒子に分割して数100 m2 の全表面積を有するシート状結晶子の集合体からなっている。写真-5.1に示すように乾燥状態下でのモンモリロナイトの形態は,ESEM画像に示されるように,不規則な薄板状粒子の集合体であることが判る。
通常の風乾状態では,この薄いシートは平行平板状に配列しており,水分子を緻密に保有した水の単分子層がシート状結晶子の基本面上に形成されている。さらに水で濡らすといっそう多数の水分子がその双極子会合によりシート層間に挿入して(インターカレートという)シート間隔を離すように広げ単位シートの厚さ(1 ナノメーター= 10-9 m)よりも何倍も厚い水和殻が静電力によってシート間に拘束されて保持される。
モンモリロナイトは水和したとき負(-)に荷電し,取り巻いている水和殻中に正(+)の電場を生じて水分子とモンモリロナイトの結晶シート間に静電的引力が働く結果となる。膨潤の大きさの程度と水分子の留保はモンモリロナイト結晶構造中の支配的な陽イオンの種類とそのイオン化傾向に依存する。
海成粘土であるモンモリロナイトは,他の粘土鉱物例えば陸成粘土であるカオリナイトに比べて極めて大きな比表面積と陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity)を有する薄片状超微粒子である。ナトリウムイオンに富んだベントナイトでは,モンモリロナイト結晶層間のNa+が周囲の水と結合して水分子層を何重にも発達させ結晶層間を広げて,巨視的な体積膨張すなわちオスモチック膨潤を発現する。したがってベントナイトの膨潤能は当該ベントナイトと水との相互作用の特性をあらわす総合的なインデックスである。
このように,モンモリロナイトと水との相互作用によって生成した複合体の水は自由水でなく,その移動は強く拘束される。この作用を水インピーダンス(Water Impedance)とも云う。これがベントナイトの遮水性の源泉である4)。